宮崎県の綾園芸さんは、主にラナンキュラスなど花卉の育種、切り花、 鉢植え、球根の生産、また各種植物の組織培養を手がけられています。
近年花市場で見かけるようになった、ラナンキュラスの新品種’ラックスアリアドネ’などのラックスシリーズが、綾園芸さんのオリジナル品種だと知り、ぜひお話を伺いたいと思いました。インタビューに答えてくださったのは、創設者のおひとり草野修一様です。
綾園芸さんのご紹介
綾園芸所在地
有限会社 綾園芸
〒 880-1303
宮崎県東諸県郡綾町南俣3179-1
綾園芸は、主にラナンキュラスなど花卉の育種、切り花、 鉢植え、球根の生産、また各種植物の組織培養を手がけおられます。
主に花卉市場、種苗会社、および、生産農家が販売先で、原則として一般消費者の方への販売はしておられません。取扱い店、および各種ネット販売よりお求めください。(web siteより)http://www.ayaengei.com/index.html
なぜラナンキュラスを作ろうと思ったのか
ラナンキュラスとの出会い
綾園芸さんはもともと花農家さんだったわけではなく、現代表を務める宏明さんのおじい様に当たる総一さんが書生だった昭和5年に、ラナンキュラスを花屋さんで買ったのが運命的な出会いだったそうです。その後、八王子に温室を借り、昭和15年ごろからキンギョソウなどを育成して、花づくりを始められました。戦後しばらくして、サカタのタネの仕事としてラナンキュラスを栽培されるようになりました。
神奈川県から宮崎県綾町へ生産拠点を移す
現代表のお父様に当たる修一さんが、神奈川県で土地を購入して、ラナンキュラスやシクラメンなどの鉢物の生産を始められました。当時ラナンキュラスの切り花用品種と鉢物用品種で、素晴らしいものが誕生して、種を大量に輸出されていたそうです。
神奈川で仕事をしながら、ラナンキュラスに適した温暖な気候の場所に土地を探しておられた時に、宮崎で土地を譲ってくれるという恩師のような方に出会われて、話はすぐにまとまり、現在の宮崎県綾町に拠点を移されました。
ラナンキュラスは、11月ごろ秋になって芽が出て、気温が高くなってくる3月頃には休眠に入ろうとします。この時期(11月?3月)の宮崎県の気候が、ラナンキュラスを育てるのにぴったりだったそうです。
神奈川県から宮崎県の綾町に移ってきた総一さんと修一さんは、1990年に「綾園芸」を立ち上げられました。
ラナンキュラスと欧米と日本の切り花文化
「今から30年ほど前、欧米ではラナンキュラスが評価されてたくさん売れているのに、日本の市場ではほとんど認められていなかったんですよ」
そう修一さんは話されます。
その理由は、欧米と日本の花に対する文化の違い。
修一さんたちが当時作られていたラナンキュラスは、茎が太くて曲がっていて、花が大きい割には時々花首がこくんと折れ曲がってしまったそう。
日本は風にそよぐという感性にひびくような花を好む傾向が強く、ヨーロッパは風が吹いてもびくともしなくらい「ガーン」と強い感じが好きだそうです。そういう花を好むヨーロッパの花文化に、骨太のラナンキュラスが受け入れられたのでしょう。
時代にマッチした個性的な花づくり
「バブルの頃は同一規格で大量生産、効率化の時代でした。人気があり、多くの人に好まれた花はカスミソウのようなふわりとした花で、ラナンキュラスのようなボテッとした花は不遇の時代でしたね」
そういう時を経て、時代に合った品種を作るため育種を始め、バイオテクノロジーを導入して各種植物の組織培養を手がけらておられ
ます。
「そうは言っても、工業製品を作っているわけではないので、1000程の種をまいて自分が思っているような姿に近いものが出てきたときに、それらを集めて育種を重ねると勝手にいいのが出てくるというか・・」
植物の力を引き出したい
「新しい品種を作る時は、この株の子孫はどうなるんだろうと思いながら作ってはいますが、きっとそれは、植物が自分で表現しているのではないかと思うことがあります。私たちができることは、植物のもつ力を引き出してあげること。新しい品種が生まれるということは、そういう事だと思っています。」
綾園芸さんのオリジナルラナンキュラスのラックスシリーズは、そんな思いを胸に作り出されたラナンキュラスの品種のひとつです。
1株から枝分かれしたスプレー咲きで、光沢のある繊細な花びらなのに長く咲いてくれる。ラナンキュラスの概念を覆す、素晴らしい品種だと市場で見るたびに思います。
ラナンキュラスの球根は100%国産
チューリップなどはオランダからの輸入物が有名ですが、ラナンキュラスの球根はどうなっているかを伺いました。
植物の輸出入は規制が厳しく、球根そのものが100%国産だそうです。
もし成田の検疫で、1万個の球根の中に1個でも虫が入っていたら、すべて廃棄処分になるそうです。
「また特許の問題もあります。その品種で日本の特許を取っていれば、外国で栽培されても日本のものになります。権利そのものは日本のものと外国のものがあります。70%権利そのものがうちのもので、30%の権利は外国だけど日本でつくっています。」
特許を取得しておくことは、知的財産を守るためにも、日本で作出されたことを証明さるためにもとても大切なことなんですね。
満開のラナンキュラスの感動を届けるために
1990年ごろは、ラナンキュラスは蕾の状態で出荷されていたそうです。咲かせてから出荷すると、すぐに開花して終わってしまうというイメージがあったから。本来ラナンキュラスは、冬の時期に咲かせてから出荷しても1か月くらいは持つ植物です。
当時、修一さんはある人から言われたそうです。
「満開のラナンキュラス、こんなきれいなラナンキュラスを見たことがない。この感動を届ける義務を怠っているよ」と。
新しい価値を作るために行動を起こす
それを期に、バラと同じくらいの地位をラナンキュラスに持たせることはできないかと、花屋と市場と生産者がその価値を共有しあう会をつくられたそうです。
「その後、有名な花の雑誌と、花屋さんとコラボをして紙面で紹介していただきました。雑誌に載ると反響が大きかったです」
新しい価値を作るために奔走された行動力。そのおかげで今の私たちは、しっかり花が育った状態の美しいラナンキュラスを手に取ることができるようになりました。
綾園芸の未来
後を継がれた息子さんの宏明さんをサポートして、応援していきたいと修一さんは話されます。親子3代にわたる花農家さんです。
継承者がいない花農家さんも多い中、親子3代にわたり私たちに素晴らしい切り花を提供してくださると思うととても心強いです。
おわりに
この度は快く取材を受けていただいた草野修一さんに深くお礼を申し上げます。
これからも新しい品種の作出を楽しみにしております。(般)フラワーワークスジャパンの本部がある関西の花市場でも、入手することができますので、毎年春には思いをはせて、ラナンキュラスを仕入れたいと思います。
取材・写真:上村真澄
(FWJ会員・宮崎在住)
構成・編集:谷川文江
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一般社団法人Flower Works Japan 代表理事の谷川文江です。
代表理事校であるAtelier F’sを主宰しています。
1996年アトリエフィーズをオープン。2013年一般社団法人フラワーワークスジャパンを設立、2015年アトリエフイーズを法人化。フラワーアレンジメントスクール経営をはじめ、講師の育成事業にも力を注いでいる。著書に『切り花を2週間長持ちさせる はじめての花のある暮らし』(家の光協会)がある。京都芸術大学卒。
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